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                                                                    2015年4月30日

 

                                                         大阪労働者弁護団 代表幹事 丹羽雅雄

 

    労働基準法改正案についての意見書

 

第1 はじめに

 安倍晋三内閣は、本年4月3日、「労働基準法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、今国会(第189回国会)に提出した(以下「本法案」という。)。

 しかしながら、本法案には、看過できない問題点があるため、当弁護団としては、ただちに撤回を求めるものである。

 

第2 「高度プロフェッショナル制度」について

 標記制度については、すでに当弁護団が本年3月3日付けで公表した「『高度プロフェッショナル制度』の導入に断固反対する意見書」においてその問題点を指摘したにもかかわらず、本法案でも盛り込まれており、当弁護団として再度、反対の意思を表明するものである。

 

第3 企画業務型裁量労働制について

 本法案では、企画業務型裁量労働制(現行労基法38条の4)についても、適用要件を緩和する内容が盛り込まれている。

 

 第一に、同制度の対象業務について、本法案では新たな対象業務として、「事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務」(第38条の4第1項1号ロ)を追加するものとしている。

 現行法において、同制度の対象業務を「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」と規定しているのは、専ら、企業の中枢部において、経営環境、社内組織の問題点、人事制度や財務などについての「調査・分析」を行い、それを踏まえて「企画・立案」を行う労働者のみに適用対象を限定しようとする趣旨である。

 ところが、本法案のように、「これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理」する者や「実施状況の評価を行う」者にまで適用対象を拡大すれば、例えば係単位で企画やプロジェクトを行う場合の係長やプロジェクトリーダーなど、企業内においていわゆる「中間管理職」と言われる労働者が、ことごとく適用対象者に含まれることになりかねない。 

 

 第二に、本法案では、同制度の対象業務として、「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務」(第38条の4第1項1号ハ)を追加するものとしている。

 しかしながら、自社の企画・立案・調査・分析を離れ、顧客たる法人の「企画・立案・調査・分析」まで含むとすれば、法人への営業活動を行う労働者(営業職)であれば誰でも適用対象者に含まれることになりかねない。

 なぜなら、顧客法人の経営上の課題やニーズについて調査・分析し、その結果を踏まえて最も適切な商品やサービスを提案し、契約の締結に結びつけて行くというスタイルは、法人顧客に対する営業活動として、きわめて一般的だからである。

 

 第三に、本法案では、労働者の労働時間の状況及び対象者の健康及び福祉を確保するために使用者が講ずる措置(以下「健康確保措置」という。)の実施状況について、現行法では使用者が「定期的に」行政官庁に報告しなければならない(現行労基法38条の4第4項)とされている点について、「定期的に」の文言を削除するものとしている。

 「定期的に」の文言については、現行労働基準法施行規則第24条の2の5により、労使委員会決議の日から6か月に1回、及びその後1年以内ごとに1回、と規定されている。

 本法案が「定期的に」の文言を削除するとしている趣旨は必ずしも明らかでないが、裁量労働制が労働時間規制に関する例外的制度であることに照らせば、最低限、行政官庁(労働基準監督署)に対する定期的な報告は不可欠なのであり、「定期的に」の文言を削除することは不適当である。

 

 そもそも、どのような制度のもとにおいても、業務の量、期限及び目標などはすべて使用者が一方的に定めるのであり、安易に労働時間規制を緩和することは、労働者の生命・健康を害することにつながる。

 本法案には、企画業務型裁量労働制の適用要件を緩和する内容が含まれているが、上記のような労働の本質に反するものであり、当弁護団としては到底看過することができない。

 

第4 フレックスタイム制について

 本法案では、フレックスタイム制(現行労基法32条の3)について、清算期間の上限を1か月から3か月に変更するものとしている。

 しかしながら、清算期間が長くなればなるほど、1日あたりの労働時間に偏りが生じやすく、この結果、長時間労働が助長される結果となりかねない。

 また、フレックスタイム制のもとでは、当該清算期間における労働時間の合計が清算期間における法定労働時間の枠を超えた場合にのみ時間外労働が成立するから、清算期間が長くなれば、割増賃金が払われない所定労働時間を超える労働時間が増加することになる。

 この点、本法案では、過重労働防止の観点から、清算期間が1か月を超える場合は、清算期間内の1か月ごとに1週平均50時間を超えた労働時間については当該月における割増賃金の支払い対象とするというが、それでも現行法に比べて割増賃金を払わなくてよい時間が増えることは明らかであり、長時間労働そのものの抑制として実効性があるか疑問である。

 長時間労働に対して抑制政策が求められる中で、長時間労働を助長させる制度拡大は行うべきでない。

 

第5 まとめ

 以上のように、本法案の「高度プロフェッショナル制度の創設」、「企画業務型裁量労働制の要件緩和」、「フレックスタイム制における清算期間要件の緩和」については、反対するものである。

                                                                              以上

 

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